最近よく聞くアイドル・ポップス雑感

ということで稿を改めるほどではないものの最近よく聞くアイドル・ポップスを取り上げ、その魅力に迫りたいと思います。

君の名は希望(DVD付A)
もう自分が乃木坂46のリリースする曲に対する客観的な視点を失ったことは自覚しているが、それでもこうやって書かざるを得ないのはひとえにバイアスを考慮しても尚このグループに適正な評価がされているとは到底言えないお寒い状況がそこにあるとしか言いようが無いからだ。なんということか……。いやそれはそれでいいのだけれど、という官能的誘惑を振りきってともかく、曲の方に話をやろう。
アイドルが歌うバラードというものはそもそもボーカルに表現力が無いのになぜか大仰しいバック・トラックが用いられがちで、その結果両者の剥離が寒々しい退屈に向かうことがほとんどなのだが、そうした悲惨な状況の例外として記憶されるべきなのが『君の名は希望』である。なぜなら無意味な華奢を削ぎ落としたパーカッションと薄く忍ばされたギターによるひねくれたメロディーが「バラード曲」の陥りがちな鈍重さを華麗に回避し、進行して行く末には驚くほど真に迫った展開が待ち受けているからだ。リズムとボーカルとコーラスの複雑な対置こそ無く、まったく一本筋ではあるが決して凡庸な袋小路には陥ってはいないし、わかりやすい創造性や文脈に目配せしたキャッチアップの不在は決して音楽的魅力を損ねるものではない。
強く指摘しておきたいのは、乃木坂46にとってカップリング曲は単なる数稼ぎではないということだ。『でこぴん』は5人の不安定でか細い声だが固有性があり、抑えながらも愛らしい歌唱とエレクトロニクスが絡み合うその音像はいちいち軽快で、妖艶なスウィートネスを遠ざける代わりに過度の感傷も遠ざける耳触りの良さがある。なんともそつのないまいやん、その震え声が批評的ですらあるななみん、ユーモアを忘れないかずみん、いるだけで最高なさゆりんごちゃんの4人の魅力もさることながら今回はまいまいの初々しくも落ち着き払った表情に耳を傾けて欲しい。ここには卓越して垢抜けながら少女像の延長線上にあり続けるという意味でアイドル・ポップの枠内に収まりきりながらも同時に都会を志向する感覚がある。『13日の金曜日』は『ぐるぐるカーテン』『おいでシャンプー』『春のメロディー』というソフィスティケートされ尽くした少女たちの若さを称揚するカタログ・ソングの系譜に置かれるべき一曲であり、モータウン・ビート+泥臭さを排除した流麗なストリングスという編成は既に至福をもたらすテンプレートとして確立しつつあるようだ。フック前で唐突に入るシンセを筆頭に尋常ではないダサさを誇る『シャキイズム』もガービッジなトランス歌謡として聞けば案外悪くない。少なくともボトムがすっきり構築されてて聞きやすいという点でAKB48の『UZA』なんかよりよっぽど優れている。
そしてここに通底するのは、ともすれば凡庸なものとして受け取られかねない抗菌されたテクスチャーをあえて引き受け、肩肘を張らない小品としてのポップスへと着地させる大衆主義だ。それは後見人の秋元康によるありがちなモチーフによるひねった表現の無いわかりやすいストーリーテリングと結び付くことでブレることなく貫徹される。かくしてこのシングルは簡単に音楽的背景を見せびらかすことなく、あるいはまったくそれを排したものでもない、大衆に受け入れられるための中庸だが黄金の良質なポップ・ミュージックを作り出すという乃木坂46の一つのステートメントとして見事に成立している。


ファーストアルバム(仮)
アップアップガールズ(仮)は自らにEDMやその影響を孕んだネットレーベル・ポップの勢いをダブらせることで躍動する力を高めると同時に広い意味での同時代性を獲得するという非常に優れた戦略を用いている。こうした目配せがある1曲1曲のクオリティの高さは折り紙つきだ。しかしアルバムとして一挙に集めてしまうとそのマジックに陰りが出てくる。すなわち、ダンス・ミュージックの勢いを援用するのと楽曲の統一性に拘った結果似通った曲調とBPMが採用されやすいせいか聴き進めるうちに疲れてしまうのである。まあ既にアルバムのトータルでの完成度至上主義という概念は古びたものとも言えるわけで、そこから一歩引いた目で見ればこのアルバムは宝石箱であることに疑いはない。それにしても、あと一曲でも『End of The Season』みたいな曲があれば……と考えてしまうわけで、そうすると何故『Beautiful Days!』を入れなかったのかという疑問が生ずる。謎。

So long !【多売特典生写真なし】(初回限定盤)(TYPE-K)(DVD付)
これは思わぬ拾い物。少なくともAKB48のシングル表題曲としては『真夏のSounds good!』以来の成功作だ。6分を超えるプレイタイムと不感症のように引き伸ばされた構成は冗長なものかと思いきや、全編を貫く過剰すぎないストリングスとホーンがふわふわとした宙吊り感を付け加え、大袈裟に重ねられたコーラスがサイケデリアを誘発する結果思いも寄らぬトリップ感に満ちたサウンドスケープが形成されている。あるいは「卒業・合唱ソング」のどうにも拭い切れない幼児性をようやく乗り越えようとしているのかもしれない。カップリング曲はアンダーガールズの人選以外、特に言うことはありません。

  • BiS / IDOL is DEAD

IDOL is DEAD
これリリースは去年なんだけど、まあ最近よく聞いてるので。TMGEHi-Standardシューゲイザーetc……と卒倒しそうになるパスティーシュの乱れ撃ちは恐らくプロデューサーの嗜好が強く出ているものでかなり安っぽいがファンクやソウル、ではないチープな音楽的バックボーンがB級アイドルとしての彼女らのイメージに結び付き十分に功を奏している。サウンドが模倣の粋は出ていなくとも、一曲一曲は高品質でアルバムとしての統一性もある。侮れない。

  • BiSとDorothy Little Happy / GET YOU

GET YOU (Dorothy Little Happy盤)
「アイドル界において対極に位置する両者のコラボレーション」という煽りは刺激的だが、残念ながら楽曲は特に化学反応が起こっている形跡は無い。で、じゃあダメなのかというとそんなこともない。ドスンと構えた四つ打ちによって動き回れる余地をもらった下品な低音エレクトロニクスはBiSの過激であろうとするスタイルにハマっているのに、仕上がりはウェルメイドなところに着地していていかにもDorothy Little Happyらしいという、両者のファンが文句を言わないところをきちんと弁えている。まあそれだけと言えばそれだけだけど。面白さという点ではお互いがお互いをカバーした『nerve』と『デモサヨナラ』の方が存分に個性が出ており、優れている。

チョコの奴隷  (SG+DVD) (Type-A) (初回生産限定盤)
成功したグループの姉妹グループが現れるのは資本主義の常だが、48グループはその姉妹グループにローカルな地域性という要素を味付けすることで差異を含めてグループ全体の力として稼働させていこうとしている点が特徴的で、現に今のところは成功している。問題は音楽性においての差別化が果たして為されているかという点なのだけれど……下世話なファンク歌謡に舵を取ったNMB48に比べるとこれまでのSKE48はそのプロダクションが二転三転する分裂病的に混乱しきったもので、とりあえず収拾を付けるためにAKB48のテンプレートをなぞっていた印象が強い。
それはいくら紅白に出たとは言っても良くも悪くも全国区に出るにはこれから、ということだが『チョコの奴隷』は『1!2!3!4! ヨロシク!』と共にまさに体育会系ダンス集団としてのSKE48の名刺代わりとなるべき一曲である。アッパーでどこか空虚なディスコ歌謡サウンドがアイドルの儚さとだからこその享楽性を騒がしく訴えかける……というのは時流に引っ張られすぎた解釈だろうか。

こあくまるんです/サヨナラのかわりに2013 (通常盤Type-A)
チップチューン風味のエレ・ポップは少女の無垢さを表象する込み入っていないチープさが印象的だが、歌声にあまりに色気がなさすぎてアイドル・ポップの常道たる男たちに都合の良く歪められたイノセンスを体現するというより、スタイリッシュに割り切った職業音楽の洗練すら感じさせる。とはいえ、『もっと ぎゅっと ハート』の得体のしれないシカゴ・ハウスのようなどこか暖かい高揚感は無い。