年間ベストアルバム2013

昔の音楽は確かに素晴らしい。とはいえやはり、同じ時代に生きる人間が同じ時代にリリースした音楽こそ、今生きている自分の言葉にならない思いを最も反映しているのではないか。それを聞いて、感じて、時代の空気を味わわなければ生きている意味が無いのでは……。そこまでは言わなくとも、とにかく今ここで生活していることを実感させてくれる音楽を愛したい。そんなことを思う一年でした。
……とまあそんなことを考えていたら、最近周りの人たちが結婚してしまったり結婚を前提としたお付き合いなどをしているのを次々と目の当たりにしてしまい、もはや直面するしか無い現実が襲い掛かってきた構図なわけでして、結局のところ今ここで生活をしていくとは、(音楽にうつつを抜かすのではなく)社会とうまくやっていくことなのではないか、と思わざるを得なくもあるわけでして……。ま、当分の間はやりたいようにやっていきます。
そういうわけで結局年が明けてしまったので今更感も漂わせつつの2013年間ベストです。あけましておめでとうございます!今年もよろしく!!



20. Factory Floor / Factory Floor
Factory Floor
エレグラでのライブも良かった。EPの実験性は鳴りを潜めたがヒプノティックな陶酔と冷たさが同居しているところが面白い。


19. K. Locke / The Abstract View
The Abstract View
今年は優れたジュークをたくさん聞けたけれど、一番個人的な嗜好に合ってたのがこれ。"Mystic Brew"や"I Wanna Be Where You Are"ネタ感丸出しでソウルフル。とにかく耳馴染みが良かった。


18. Danny Brown / Old
Old [輸入盤CD] (5372872)
前作の分裂気質がまとまってしまった感じもあるが、アルバムとしての完成度は高いと思う。


17. Fla$hBackS / FL$KS
FL$8KS
過去記事参照


16. Disclosure / Settle
Settle
これもライブが良かった。UKガラージのアプローチはどこへやら、四つ打ちキックと裏打ちハイハットの響きは完全にハウスミュージックだがぬるっとしたテクスチャーとメロディアスなドライブ感が特徴。


15. (((さらうんど))) / New Age
New Age
キラキラ感がたまらない。


14. Maria / Detox
Detox
デカいケツをセクシーに振り回し、愛を強調しながら欺瞞を攻撃する。


13. Knxwledge / kauliflowr.LP
Kauliflower [12 inch Analog]
Jディラ〜LAビートの流れの上でもまだやれることはあるんだということを再認識させられた。


12. Joey Bada$$ / Summer Knights

http://www.livemixtapes.com/mixtapes/22392/joey-bada-summer-knights.html
The UnderachieversやFlatbush Zombiesも良かったが、中でも今作は自分の好きな90年代感を一番うまく切り取ってくれていたように思えた。


11. Chance The Rapper / Acid Rap

過去記事参照


10. Le'jit / New Beginning
ニュー・ビギニング (帯ライナー付直輸入盤)
インディーソウル兄弟トリオのなんと14年振りの新作。クラシカルなR&Bの響きは極上だし、メロディも奇を衒ったものではなく耳馴染みの良い穏やかなものばかり。もちろん伝統的な技法に則っているとはいえ、ただ単純に再演を行うのではなく、スクリューを持ち込んだりと今日的な視点への目配せを取り入れているから古臭さはない。それどころか、その堂に入りぶりはインディーR&Bムーブメントという今の時流がようやく彼らのやっていた事に追いついたような感じすらある。アルバム全体通した完成度の高さが気に入ってよく聞いた。


9. Oneohtrix Point Never / R Plus Seven
R Plus Seven [輸入盤CD / 豪華デジパック仕様] (WARPCD240)
ドローンやUSアンダーグラウンドの雄が名門WARPに移籍し、グッと現代音楽的に……なったんだろうか?ここで『Replica』の冷笑的なトーンは色を変え、冷たいながらも美しいメロディが調和を見せている。実験的なのに馴染みやすく、ベタでありながら高潔な美しさもあるという分裂した魅力が統制されることで奇妙な心地よさをもたらす。


8. Pusha T / My Name is My Name
My Name Is My Name
傑作『Lord Willin’』から10年以上経っていても言ってることとライム巧者ぶりは変わらず。カニエも全面参加し、ミニマルで削ぎ落とされたサウンドは言ってみれば裏『Yeezus』的という指摘も的を射ていると思う。そんな2013年的なお膳立てにも関わらず結局のところは、ネプチューンズの独創的なビートでもカニエやハドソン・モホークの先鋭的なビートでもうまく乗りこなしながらドラッグ話に花を咲かすという、ベテランの変わらぬスタイリッシュさが印象に残る。


7. Hair Stylistics / Dynamic Hate
Dynamic Hate
コロコロと音が変わっていくし、ビート・ミュージックをもてあそぶような展開もある。そこに諧謔精神を見ることも出来るだろうが、むしろ赤裸々な試行錯誤そのものをビート・ミュージックの揺れ動きへ、アナログな機材から作られたローファイな質感へと落としこんでいるから、結果として予測不可能でファンキーな面白さを感じさせるアルバムになっている。


6. Inc. / No World
No World
ハウ・トゥ・ドレス・ウェルからベタついた悲痛さを減じて代わりに軽妙さと洒脱さを注入したようないかにも2013年らしい『R&B』アルバム。ただしソウルの伝統的な技法が用いられているわけでなく、むしろコクトー・ツインズのように過剰なまでに敏感な美意識によって全体が貫かれている。個人的にはシルキーな手触りと洗練されたチャラさが好きで愛聴した。


5. Janelle Monae / The Electric Lady
ジ・エレクトリック・レイディ(初回限定バリュー・プライス盤)
労働者階級のコスチュームだというタキシードを着込んで、ポンパドールで少年のように飾り立てるジャネル・モネイの1stはその気が狂いそうなほどファンキーなサウンドスケープでもって自らがジョージ・クリントンジミ・ヘンドリックススティービー・ワンダー、プリンス、アウトキャストといった人々。すなわち黒人音楽の歴史を継ぎながら、過激に、豪放に、世界を拡張してゆく先進主義者たちの末裔であることを高らかに宣言していた。
このアルバムはそうした過激さやファンキーな爆発力は少し鳴りを潜めたが、その分モネイのインテレクチュアルなコンセプトとパワフルな歌唱そのものが強調され、若干アート・ロック寄りな匂いすら感じさせるうまくまとめられた作品だ。ブラック・ミュージックのみならずインディー・ロックなどの異なる文脈からのアプローチも取り入れられている本作は、あらゆるトライブを自由気ままに横断し、その衝突を楽しみながら一つのグルーヴへと巻き込んでいく。


4. Drake / Nothing Was the Same
Nothing Was the Same
流麗なアンビエンス漂うディープでメランコリックなトラックと繊細でメロディアスな歌心でビートへ寄り添うフロウが、ヒップホップ・ゲームにはびこるマチズモに釘を刺しながら、自らの成功体験と決して晴れることのない憂鬱の両方を分裂させることなく同居させる。とにかくどうにもならない2013年には、俗世の何が手に入っても結局は満たされることのない、渇いた男の魂が歌う虚無がとても感傷的に聞こえた。


3. Run The Jewels / Run The Jewels
Run the Jewels - Deluxe Edition [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC404)
エルPとキラー・マイクというコワモテ2人によるラップ・デュオのミックステープは、『Cancer 4 Cure』と『R.A.P. Music』に熱中したヘッズたちの期待をまったく裏切らない逸品だ。タイトでソリッドな音像は確かにエッジーだが、図太いベースとビシバシと絶え間なく吐き出されるラインの数々が、ここではむしろオールドスクール・ヒップホップの享楽的なノリを生み出している。


2. KMFH / The Boat Party
BOAT PARTY (直輸入盤・帯ライナー付)
今年の3月、恥ずかしながら初めてセオ・パリッシュのDJを聞く機会に恵まれた(11月にも聞けた)。割れんばかりにキックとハイハットを強調して、シャカシャカとしたファンキーな音を作り上げていくそのスタイルにおけるダイナミズムにはまったく興奮させられた。暴力的なまでにイーブンキックがブチ鳴らされる中でディスコやソウルのメロウな響きが挿し込まれる時の恍惚と言ったら……。デトロイトの21歳、カイル"マザー・ファッキン"ホール(=KMFH)のデビュー・アルバムを聞いてまず思い起こされたのはこの体験だ。つまりここには剥き出しのファンクネスと、時にもたらされる叙情性がある。
このアルバムには先人たちが編み出してきたデトロイト・ディープハウスの素晴らしさが偏執的なまでに詰まっているが、それだけではない。本作を基礎付けるのは茫洋とした街で鳴り続けるマシン・ファンクと亡霊たちの享楽的なダンスだ。40分というアナログ盤のためにあつらえられた短めのプレイタイムの中、ホールはメロディを響かせることより、無骨な手触りのキックとハイハットを過剰なまでに打ち鳴らすことを優先していく。野蛮で向こう見ずなリズムの強調はジューク・フットワークにも通底するものだが、BPMがビートダウン・マナーに則って抑制されている結果として爆発力だけでなくゴツゴツとした色気を持ち合わせているし、エレクトロよりもソウルであろうとする荒々しくも鈍い光を放つサウンドスケープは雄弁に彼の地における歴史を物語っている。そしてリズムの過剰さに圧倒されていると、スモーキーなフィルターを通した美しくも酩酊したソウル・サンプリングが現れては消えていく。ここで現れるボーカル・サンプルの美しさはジャケットに象徴されるように、荒廃した都市の退廃的な美学に裏打ちされているという点でブリアル的でもあるのかもしれないが、より官能的だ。まるでディスコ・ディーヴァの幽霊のようにかつて存在していたフロアにおける夜の妖しい美しさを導き出す。
才気、音楽的探究心、何より満ち溢れるエネルギーからのみ生まれるダーティーな美学は彼に、シングルで垣間見ることの出来たデトロイト・テクノのメランコリックな感覚やフュージョニックでスペーシーなアート志向にあえて距離を置くことを選択させたようだ。しかし、それによってノスタルジックでありながら後ろを見ない、何よりもパワフルなダンス・ミュージックの素晴らしさをたたえている。
12月に出たCD盤のボーナス・トラック4曲も本編に劣らずとても良かった。


1. Kanye West / Yeezus
Yeezus
『MBDTF』はある種の精神分裂的な優雅さを有した内省的なインナートリップによる豪華絢爛な絵巻物のような作品だった。打って変わって本作でカニエは社会の不条理を攻撃し、自尊心で敷き詰められたラップを外罰的に表現する。
圧縮されたトラップ+インダストリアルなアシッド・ハウスと表現すればいいのか……徹頭徹尾凄まじい音圧が響き渡る音像はヒップホップの衝動あるいは暴力性を過剰なまでに強調していながら、ミニマルに削ぎ落とされた音数の少なさが歪んだシンプルさを感じさせる。ダフト・パンクやハドソン・モホーク、フランク・オーシャンにチーフ・キーフといったゲストを大量に招きつつ、背反し混在する要素を一つにまとめ上げる手腕をこうも見せつけられては『Yeezus』と自称されても(そしてクロワッサンがどうの、みたいなどんなにしょうもないリリックであっても……)まあ、しぶしぶと納得せずにはいられない。というか、純粋にめちゃくちゃ格好良いもんで。今年の一番。