2012上半期ベスト

シングル、アルバム問わず。原発事故に際しての東電並みの適当な基準であいうえお順の10枚選出。
Street Halo / Kindred [解説付・国内盤] (BRC320)
Burial / Street Halo - Kindred
『Burial』『Untrue』でメランコリアに満ちたダブステップを提示し、Four Tetとのコラボレートでダブステップのその先をハウシーな展開に落とし込んでいったBurialの新作はガラージ・2ステップのくすんだ変容系といった趣。ダークに鳴り響く音像の中でソウルフルに現れては消えていくピッチシフト・サンプルは健在だが、そのリズムパターンからはダブステップの狂騒から一歩引いた感すら受ける。ザラついたアナログの質感と反復のカタルシス
Money Store
Death Grips / The Money Store
昨年出たMixtapeは怒りとフラストレーションと憤怒とストレスとイラ立ちを一気呵成にブチ破る爽快でハードな作品(あのストレートな怒りの表現はラップ・ミュージックやポスト・ハードコアというよりもっと遡ってハードコアを聞いている感覚に近いものがあった)だった。今作においてもその怒りは減ずることなく、しかしながら同時にインディー・オルタナティブなセンスをより強調することで、彼らの音楽的素養が整合的に押し出されている。ライブが見たい。
Don't worry be daddy
ECD / Don't worry be daddy
ECDはアル中を乗り越え結婚し子供が出来たという自身の日々についてを――例えば「貧乏ながらもやっと見つけた幸せ」のように――安易な物語として消費されることを徹底的に拒む。5時に起き仕事や育児など日々の家事に忙殺され、時には過去を振り返りつつ空いた時間にラップをして21時に寝る。基本的にラップのトピックはただそれだけだ。しかし虚飾やハッタリを排された、研ぎ澄まされたリリックを臨場感たっぷりに語っているからこそ、そして日々の暮らしを――我々と同じように――タフにサヴァイヴしていく姿勢が明確な彼だからこそ、本作のアルバムタイトル『Don't worry be daddy』が強い説得力をもって迫ってくる。ここでECDは徹底的な内省化を図ることで、逆説的に強力な批評性を獲得しようとしているとも言えるだろう……。といったようにどうしてもリリックにフォーカスせざるを得ない作品ではあるが、音とラップはUSからの影響を十分に飲み込んで咀嚼しており、そこだけ取ってみても面白い。イリシット・ツボイの狂気!!!!
Seeds
Georgia Anne Muldrow / Seeds
いやはや、こういうアルバムは好きにならずにいられない。肥沃な音楽的バックグラウンドを有するソウルシンガーGeorgia Anne Muldrowと、ジャズやファンクへの一筋縄ではいかない愛情をビートに変換し続ける異能の多作家Madlibとのタッグ作品。Madlibが70年代ソウルはもちろん、スピリチュアルジャズやフリージャズの今尚通ずる先進性を改めて咀嚼し、ヒップホップ以降のセンスで捉え直すのを彼女のソウル・シンガーとしての素養が突き刺すような今作は実験精神と歴史への参照、そして自らの立ち位置への自覚が調和する美しいブラック・ミュージックである。懐古趣味的ではあるがサイケデリアの迷宮に踏み出している点も良い。
IN MY SHOES
SALU / In My Shoes
BACH LOGICを後見人として鳴り物入りでデビューしたこの新人の1stアルバムについて、Amazonのカスタマー・レビュー(くらいしかネット・ユーザーの意見をまとめて見ることの出来る場が無いのは大きな不満ではあるが)を見ると賛否両論であり、批判の矛先はどうもこの作品が「ヒップホップではない」という点――それはこのムラ社会における紋切り型の批判である――に集約されているようだ。しかし、この作品を語るのにヒップホップといういささか古びた物差しだけを持ち出すのは妥当でない。すなわちこの作品は……アーバン・ミュージックだ。当然ながらヒップホップもここまで細分化した以上アーバン・ミュージックとそうでないものに二分されるわけで、特にこの国のラップ・ミュージックは伝統的にローカルな感性でもって自分自身にフォーカスしていく作品が主流であったように思える。そうした中でアーバン・ミュージックとしてのラップ・ミュージックを意識的に作り上げた一つの先駆的結果がSEEDASEEDA』であるとすれば本作はそれに続く――そして作家性に満ちた抽象化とトラックの充実度でそれを上回る完成度を得た――アーバン・ミュージックである。現行USシーンと共鳴するラップスタイルとストリートと言うよりは一人の都市生活者の感性で描写されるリリックはOHLDの、ブラックネスをポップに消化した素晴らしく哀愁に満ちたトラックとBLのトータル・プロダクションの巧みさによってこれから先の、一つのメルクマールと成りうる強度を獲得している。
Music for the Quiet Hour/Drawbar Organ
Shackleton / Music For The Quiet Hour / The Drawbar Organ EPs
ベース・ミュージックとしての機能性と、ハードミニマルの音センスに加えてアフリカン・ビートに傾倒していたShackletonだが、今回のアルバム(とEP集)において彼は、自身をダブステップと結びつけていた太いベースラインを若干後退させ、またテックな音色を緩やかなものへと変化させることでオカルティックな上モノと執拗なまでのトライバルビートによるポリリズムをより押し出している。その結果は……酩酊アトモスフェリック・トライバルビートが縦横無尽に左右のチャンネルで蠢く、すなわち素晴らしく気分が悪くなる良質のバッド・トリップミュージックとして実を結んでいる。
Dopesmoker
Sleep / Dopesmoker
リイシュー盤、遅ればせながらようやく聞いた。非の打ちどころのないストーナーメタルにして、至高のロックン・ロールアルバム。
Hakoniwa
キエるマキュウ / Hakoniwa
USヒップホップが00年代においては先の10年で培われてきた定型を如何にして打ち破るかの挑戦をしてきたものと考えると、我が国におけるいわゆる「ジャパニーズ・ヒップホップ」は90年代のヒップホップこそがヒップホップという音楽の完成形と信じる者にとってあるいは正史と言えるものではないだろうか。このアルバムにおいてそうした価値観は貫徹されており、ゴールデンエイジ・ヒップホップの手法を受け継ぎながら脈々とアップデートしていく事でも素晴らしい作品というのは出来上がるという事を証明している。90年代直系の音だと確信させつつも未だ今日性を持ち続けようとする姿勢は素直にカッコイイ。
おいでシャンプー
乃木坂46 / おいでシャンプー
過去レビュー参照。『偶然を言い訳にして』という比類なきアーバン・ポップ・ソングをカップリングにしているところがなんだか心憎いものがある。当ブログでは市來玲奈さんと橋本奈々未さんに引き続き注目していきます。
Limited addiction(DVD付A)
東京女子流 / Limited addiction
過去レビュー参照。しかしこのアルバムを引っさげて行われた野音でのツアーファイナルは、個人的に久しぶりに5人の完全なパフォーマンスを見ることが出来たのもあるが、バンドのファンキーな演奏や練られたセットリストにロケーション、例の発表もあってちょっと込み上げてくるものがあった。つい最近出たシングル『追憶 -Single Version- / 大切な言葉』は正直な所今の彼女らの期待値にはそぐわないものといえ、まあ「大切な言葉」はハッピー且つパワフルな女子流ポップスとして一定の評価を与えるべきクオリティか(あと、イントロがトクマルシューゴっぽくて良い。)。



次点十枚としてはGangrene / Vodka & Ayahuasca, Cloud Nothings / Attack On Memory, Wiley / Evolve or Be Extinct, A$AP Rocky/ LiveLovePurple, Lil B / Gods Father, Dean Blunt & Inga Copeland / Black is Beautiful, (((さらうんど))) / (((さらうんど))), 大谷能生 / Jazz Abstractions, 田我流 / B級映画のように2, Kensei Ogata + Osamu Ansai / Tonight, Flightといったところでしょうか(なんかtwitterのbioに好きなバンドを羅列する人みたいになった)。そういうわけで下半期も楽しみです。