Hyperdub Episode 1@代官山UNIT

最も重要な(ポスト)ダブステップレーベルの一つ、Hyperdubのレーベルショウケース・イベントに行ってきた。
広がりを見せるダブステップ概念だがそのレーベルを思いつくままに挙げてみるとMalaのDEEP MEDiにScubaのHotflush、PeverelistのPunch Drunk。そして、なんとも奇妙な音楽をリリース/リイシューし続けるHonest Jon's……とにかく枚挙に暇がない。今とりあえず挙げてみたレーベルだけでもそれぞれ独自のコンセプトと音世界を保持しているのであって、こうした事実はダブステップ――そしてその発展系――の間口の広さを表しているとも言える。そんな中でHyperdubはジャマイカサウンドシステム文化から影響を受けた英国エレクトロニック・ミュージック――それはダブやレゲエから始まり、ジャングルを通過し、グライムやダブステップあるいはファンキーへと受け継がれる――における突然変異種をそのコンセプトとしているようだ。なるほど、確かにHyperdubが2009年にリリースした、今のところ唯一のコンピレーションである『5years of Hyperdub』を聞いてみるとこの時点で既にダブステップと一概に括るのは困難である。むしろ前述したエレクトロニック・ミュージックの中でも様々なジャンルがねじれて、混合され、再び呼称のない音楽へ戻っていくその瞬間を捉えたような印象を受ける。これをポスト・ダブステップと言っていいのか。例えばブルー・アイド・ソウルにベース・ミュージックを落とし込んだJames Blakeやダブステップからベルリンテクノを経て、今やレイヴ・カルチャーにその歩を進めようとするScubaなどに比べると彼らは(ダブステップ以前の)ルーツに忠実である。じゃあ、プレ・ダブステップ?(……)。とにかく、今回のショウケース・イベントではそうした、彼らのルーツへの敬意とまた突然変異種としてのベース・ミュージックを十二分に味わうことが出来た。


まず、Saloonで流れていたJukeセットで体を暖めてからHype Williams。彼らがHyperdubからリリースした『Black is Beautiful』(なんと人を喰ったタイトルといいますか……適当すぎるでしょう)はスウィートな(しかしスクリューを通過した、不健康さに満ちた)ポップに、錯乱したダブやディスコと歪んだ女性性を混ぜ込みローファイに仕立て上げた、Throbbing Gristle……にしては知性というか品が欠けている気がする。とにかく何処までシリアスで何処までがギャグなのか全くよくわからない作品である。それでも過去への参照というものを確かに感じさせる辺りがHyperdubがサインした一因なんでしょう。
ライブ自体もスモークを一寸先も見えぬほどに焚き、銃声やテレビのナレーションなどチープなサンプルを延々いじりながらひたすら重低音を響かせつつ――彼らのユーモアセンスなのだろう、もしかしたら嫌がらせなのかもしれない――、たまに思い出したかのようにダンス・ビートが流れ出し、Inga Copelandがポップに歌うという、まさに彼らのジャンキーな感性をそのまま発露したようなものであった。つまり、ドローンの様な重低音を数十分響かせた後、唐突にダンス・ビートが流れても踊るのが馬鹿らしく思えてくるのだ。しかし決して退屈なものではなく、OPNなどのインディーシンセウェイブなどとも通ずる感覚は過去への参照と直感をただ垂れ流す、それだけでは終わらせない新鮮さがあった。


そして最も期待していたKing Midas Soundだが、果たしてその期待は裏切られることはなかった。彼ら(というかKevin Martinなのであろうが)は恐らくHyperdubの中でも最もジャマイカからの影響に自覚的なアクトの一つである。Kevin Martinはそのキャリアの初期にはジャズコアやインダストリアル、ヒップホップなどをプレイしていたが、そうした多くのジャンルからの影響がThe Bug――ジャマイカ的なダブをダンスホールやグライムへと変換しようとするプロジェクトであり、まさにHyperdub的とも言える――には集約されていることが見て取れる。そしてKing Midas Soundはその発展系と見立てることが出来る。そもそもジャマイカにおいてサウンドシステムは同業他社との競合に打ち勝つ必要があったため、とにかくハードで挑戦的な爆音を響かせるシステムが発展していったわけだが、そうした精神がKevin Martinの実験精神やUKにおけるベース・ミュージックと結びついたのがKing Midas Soundであるとも言えるだろう。そんなジャマイカとUKとの混合を感じさせる圧倒的な、全身が総毛立ち肺まで響くベースサウンドとその上でトースティングする2MC(これもサウンドシステム的ですね)の亡霊さながらに幽玄な囁きと佇まいはまさに突然変異種と言うに相応しい、ねじれ感覚に溢れるサウンドであった。


そこからレーベルのボス、Kode9のDJに続く。彼のDJはまさにHyperdubのコンセプトを体現するものであった。UKガラージからグライムやUKファンキー、2ステップやジャングルにUSヒップホップやジューク(!)などもプレイし、あくまでダブステップはその中の一つにすぎない。しかし、それにしてものっけからラストまで終始BPM高めのアッパーなプレイには圧倒された。とにかくジャングルの影響っていうのは大きかったのでしょう。まあ、この辺りのストリート感覚というかコンセプトに傾注して頭でっかちな音になるようなことはなく、あくまでハードなまでのダンス・ミュージックとして機能するところがやはり面白い。そしてこれはまったく個人的な話なのだけれどラストにWarren G『Regulate』をかけていたのだが、ここ最近(中学卒業以来)久しく聞いていないのにNateの歌は未だに全部ソラで口ずさめたのに驚いた。


DVAに関してもリンスFMで鍛えているだけあり、安定感のあるプレイ。若干煽りすぎかな?と思わないでもなかったが、ポコポコとしたキックとファンキーなベースラインの抜き差しのうまさで帳消しというか、あの音が聞こえてくるとどうしようもなく盛り上がる。今回は野暮用のため途中で切り上げたが時間帯的にも良い具合の熱量を持ったプレイだったと思う。


今回のイベントはまさにショウケース・イベントに相応しい、自らのレーベルとしての立ち位置ややりたいことを示すアクトが登場していた。それはすなわち、派手に踊れるだけでなく、レーベルの今までとこれからも予感させる面白さがあったということである。そういうのってなんかいいですよね、的な。