Mark McGuire,青葉市子,Shinji Masuko@代官山UNIT

現行USインディーシーンにおいてその存在感を増すEmeraldsのギタリスト、Mark McGuireが来日するということで、そのライブに行ってきた。Manuel Göttsching + Terry Rileyと形容されることも多い彼の最新作『Get Lost』は、確かにいささかの既聴感は感じられるもののギター多重録音というジャンルにドローンやアンビエント、更に言えばチルウェイブなどのベッドルーム感性を落とし込む今日性の高さを感じさせ、同時に確かな作家性(アンビエントと接続されながらも、その随所に非常にパーソナルで感傷的な部分が盛り込まれている)をも垣間見ることの出来るなかなかの良作であった。そのオーセンティックとエクスペリメンタルのバランスが非常にしっくりきて、年間ベスト(これ、今見るともう既に変えたい……笑・まあ、2011年12月当時のハナシということで)として選び出したくなるほどにはよく聞いていた。そんなわけで今回のライブにあたっても、個人的にはミニマリスティックな陶酔感が彼の持ち味――それこそ前述したManuel GöttschingやTerry Rileyといった恐らく彼自身のヒーローから受けた影響こそが――であると考えていたのでライブに関してもこの辺りを期待していたが……結論としては良い意味で予想を裏切られた。対バン形式だったので登場順に雑感を記していく。
19:40、まずはDMBQ, Boredomsの増子真二。女性ベーシストを引き連れての轟音フィードバック・ギター・ドローン。日本サイケ直系、という向きもあるがそれよりかはむしろ最近のボアダムスとも共鳴するタイプの(まあ、当たり前と言えば当たり前ですが……)シャーマニスティックな質感であり、その場の空気を塗り替えるような轟音と音の抜き差しはなかなか楽しめた。
20:15、次に現れたのは青葉市子。オーソドックスなフォークスタイル(ちょっとクラシック・ギターっぽい?)だがギターサウンドにどこかアーバン・アシッドといったエクスペリメンタル・フォークさらにはブルースの持つ面白さを感じさせ、また彼女自身の声も非常に素敵で詩を丹念に紡いでいくような印象を受けた。少しずつ自分の世界に吸い寄せていくようなスケールの大きな説得力ある演奏には、4曲30分強ほどの短時間に弾き語りという演奏形態でありながらすっと引きこまれていく魅力があり、ぜひともワンマンで見てみたいと思わされた。あと仕草がいちいちかわいらしく激萌えであったという事も付け加えておきたい(オタク)。
21:10そして本日の目当てであるMark McGuireがようやく登場。すらっとしたアメリカのギター青年といった、全くそのまんまの風貌で自己紹介・挨拶をした後おもむろにギターを弾いていく。最初の出音はこれがまったく笑ってしまうほどManuel Göttschingであり、ジャーマン・プログレの美しい陶酔感をゆるやかに作り上げていく。多重録音により積み重ねていったギターのレイヤーやサンプルを抜き差ししていき、音と対峙しながら時には隙間を作り出し、時には再び埋めていくことで新たな音を作っていく。この辺のポップな音響センスあたりに今っぽさを感じながら、ドリーミングなサウンドにうつつを抜かしていると非常にアグレッシブな、そしてそれ以上に素晴らしく感傷的なメロディを持つフィードバック・ノイズ混じりのギターソロが展開される。自らの重ねたギターレイヤーの上で扇情的と言っていいほどソロを繊細に弾き倒す、まどろみの中で号泣しているようなアンビバレンツな感覚は彼のアルバムで言うと『Living with Yourself』が一番近いだろうか。最近の彼の音源と異なり、抑揚と解放、陶酔と情熱のバランスがライブでは後者に寄っているように思えた。後半ではギターだけではなくベースを持ち、また自らの声をアトモスフェリックに使っていきドローンな激情にも収束させたりと展開の多様さも見事であり、1時間ほどではあるがギター多重録音は幅の限られた表現方法だという認識を覆される、様々な表情を見せつけられたライブであった。アンコールは『Get Lost』の表題曲をコンパクトに。ここでもやはり陶酔と激情が美しく展開され、泣けた。
今回のライブはほとんど対バン形式であり、三者三様の音を展開していたがそのどのアクトにも共通して思えたのはギターという楽器の叙情性とそのオープンマインドな性質である。あまりロックという音楽に馴染みの無い思春期を過ごしたためギターという楽器に思い入れが無かった自分ではあるが、多くの人がギターというイコンそのものに情熱を傾けるその理由の一端に触れることが出来た気がする。ライブ終了後に、UNITを出るとかなりの轟音を聞いた割に全く耳に違和感を覚えることなく、「音の構造がしっかりしているとうるさく感じることはない」という細野晴臣御大の言葉をなんとなく思い出した。

Living With Yourself

Living With Yourself